レッスンの後は、正式にお付き合いを始めて、初めてのデートになる。
水曜日に寺嶋さんとの関係をきちんと終わらせたあと、
部長に正式に交際を申し込まれ、了承した。
今日のディナーは私が希望していたイタリアンだ。

それぞれ一度家に帰り、再び待合せしてから、
タクシーで伊勢丹新宿店の近くまで向かう。
街はクリスマス一色だ。
イルミネーションがきれいだし、カップルや家族だらけで、自ずと2人の距離は近づく。
今日の賢二さんは、いつもの会社のような雰囲気だ。
「なんか、部長とプライベートで逢ってる感じで緊張します。」というと。
大きく笑われ、
「そうかな、あまり違わないと思うけど。」
「まぁ、どっちもかっこいいですよ。」
「そんな面と向かって言われると恥ずかしいな。」
「え、慣れてるんじゃないですか?」
軽口を叩き合いながら、お店まで歩く。

新宿三丁目のイタリアン「Il Lato(イルラート)」さんにエスコートされた。
予約してあったので、すぐに席に案内された。

お魚中心の料理が次々と出てくるコースを堪能する。
カルパッチョ、ミネストローネ、お肉にお魚、パスタ、最後のデザートまで、
どれも美味しくて、ワインも美味しくて、手が止まらない。
食べる口も、喋る口も止まらない。
「あー、お腹いっぱいです。幸せ。」さっきから同じセリフを何度も口に出してしまう。
そのたびに、賢二さんは「うん、美味しいね。」と相槌を打ってくれる。

楽しい時間があっという間に過ぎていった。
そろそろ、というタイミングで、
姿勢を正した部長に正面から見つめられる。
真剣な表情で、視線を反らせない。
見つめ合ったまま、誠実な瞳で誘われる。
「これから、うちで少し飲みなおさないか。」
「は、はい」
戸惑ったけれど、正直、そうなればいいと思っていた。
遅かれ早かれ、賢二さんとそうなることはわかっていたことだから。