「あと、岡田課長のことなんだけど、
あの人、もう会社を辞めたから。
会社のお金に手を付けたらしくて、クビになったらしい。」
「実は、年明けから名古屋支店に転勤になったんだ。
次がいつになるかわからないから、最後になるかもと思って会いたかったんだ。
いろいろと無理言ってごめん。
あと、強引だったよな、ごめん。
自分がこんなに余裕なくなるなんて知らなかったんだ。ごめん」
悟が何度も謝り、頭を下げる。

悟が姿勢を正して、私の方に面と向かう。
「一方的に話してごめんな。
本田さんからも俺に言いたいことがあったら言ってくれる?」

「ううん。
今、聞いてすっきりした。
あの時、もっとちゃんとぶつかっておけば良かったのよね。
逃げてごめんね。
もう私は大丈夫だから。」

最後には、
「本田さん、ありがとう。」と言われ、
「寺嶋さん、ありがとう。」と返事をした。

悟が先にお店を出て、1人座っていると、
部長が悟がさっきまでいた席に座り直した。

「大丈夫?
聞いてる限り、俺の出番はなかったかな。」
部長がほっとしたように話す。
「はい。何から何までありがとうございました。
彼と話せて良かったです。すっきりしました。」
引っかかっていた針が何本も抜け落ちて、心の底から笑顔になれる。

テーブルの向こうから、部長の手が私の手を包み込む。
「洋子のことは、
俺がちゃんと幸せにするから。」
「はい。」
部長の真摯な視線に見つめられながら、私も部長の手を握り返した。