クローバー

が、直ぐに天音は目を開けて俺にウインクして見せそのまま水面から顔をだす。

この状況は不味い。

何故なら俺は泳げないからだ─。

ごぼっと息を吐くと途端にパニックに襲われた。

苦しい。

流れは強く無いが天音の体の向こう側にある滝壺に吸い込まれそうな気がしてならない。

滝壺とはかなり距離が離れているのに怖くて仕方無かった。

ごぼっ!とまた息を吐く。

本当に苦しい。

このままだと本当にヤバい。

と、その時。

天音が水中に潜り俺の体を掴んだ。

何かを必死に言っているが頭の中は真っ白だし、天音の口から出るのは気泡だけで何を言っているのかさっぱり分からない。

天音は俺から手を放して再び水面から出た。

天音の手が離れた時、もうだめだ。という言葉が頭をよぎり諦めて目が勝手に閉じた。

走馬灯なんか見えない。

ただただ苦しい!

空気が吸いたい!

空気が…。

「…っ!」

驚いて目が開く。

くっつく鼻と鼻。

重なる唇と唇。

流れ込んでくる酸素。

目を閉じて優しい表情をしている天音。

落ち着く…。安心する…。
天音はゆっくり目を開け下を指差しながら水面から顔を出した。

天音の足は底にしっかり着いている。

立てるんだ!

俺はザバッ!!と盛大に水飛沫を上げながら水面から顔を出した。