クローバー

斜めからそれも遠目に見るのと、こうして正面から見るのとじゃ迫力が全く違う。

僅かにだが水飛沫が顔にかかるくらい近い。
音も凄まじい。

水飛沫のせいか足下には苔が生えている。

「アタシ、カメラ持ってきてるんだった!ちょっとリュック…」

天音は言いかけて突然ぴたりと止まる。

「?」

「はっ…はっ……くっしゅん!」

天音は突然のくしゃみと同時に苔で足を滑らせバランスを崩して落ちそうになる。

「あっ!」

─1秒─

天音は反射的に俺に手を伸ばし、俺もまた手を伸ばす。

ぐっと強く手を握った。

─1・5秒─

天音と目が合う。

安堵が広がる。

─2秒─

踏ん張って天音を引き寄せようとしたが苔に足をとられてバランスを崩した。

一瞬の出来事。

「きゃっ!!」
「うわっ!!」

俺は天音を抱き締めるようにして水の中に落ちた。

落ちる瞬間俺は目をつむった。

ガリッという僅かな衝撃と唇に走る痛み。

口の中は水に薄れた鉄の味。

片目を開けると見えたのは天音の顔。目はつむっていると言うより痛みを感じて思わず目を閉じた。と言う方が合っている。

事故だが、キスと呼べるか分からないが確かに唇は重なった。

その事に動揺し俺は天音を放してしまった。