寒い寒い日だった。

空は灰色に曇り、今にも雪が降りだしそうだ。

気温はぐっと下がり、はりつめた空気は厳しい冬の訪れを肌で感じさせる。

そしてここは冷たいコンクリートの壁の一室。

「おっかあっさんっ…。」

まだ幼い少年が仰向けに横になっている女性に向かって、「ひっくひっく」と嗚咽を漏らしながら「おかあさん」と呼び掛けている。
少年の横には彼より背が高い女の子が横たわる女性を見つめ、呆然と立ち尽くしている。


2人は手を繋いでいた。


男の子は片手で涙をぬぐいながら。

女の子はいつも着けている、お母さんから貰った四つ葉のクローバーのトップが付いたネックレスを握りしめながら。

2人はギュッと手を繋いでいた。

暗く冷たい部屋には男の子のすすり泣く声だけが響く。

しばらくして後ろの重い扉のノブが回り、ゆっくりと扉が開いた。

「一葉…もう行くよ。」

女の子は少しだけ体を震わせた。

それは手を繋いでいる男の子にも伝わった。

「お姉ちゃん…どこっ…いぐのっ…?」

女の子は何も答えなかった。

すると後ろから居なくなった父親に顔が似ているおじさんが歩いてきて、女の子の両肩をそっと掴んだ。

「行くよ。」

女の子は小さく頷く。

男の子は力を込めてお姉さんの手を握った。けど、おじさんに手を掴まれるとビクリとして力が抜け、手を離してしまった。

女の子はおじさんに押されながら部屋を出ていった。

男の子は悲しくて自然と手に力が入ったのか、または手に残るお姉さんの感触を忘れないようにするためか、手を固く握りしめた。

男の子の泣き声だけが響く。