──天気雨
誰かと出会えると言われている。
天気雨の意味として、良い出会いがあるという意味がある。

少し登った丘の上にあまり知られていない大きな桜の木がある。
さっきまで晴れていたけれど、雨が降ってきた。天気雨だ。

「うーん、どうしよう。止むまで待とうかな。」

天気雨だから家に帰るのは問題ないのだが、
雨を見るのが好きな優杏は止むまで待つことにした。

「こんにちは。」

しばらくすると、声をかけられた。
声をかけられた方を向くと誰もが振り返るほどの顔立ちをした男の人が立っていた。

「こ、こんにちは。」
「いきなりすみません。ここの桜の木知ってる人がいるとは思わなくて。」
「あまり知られてない場所ですもんね。」
「はい。ここでは何をしてたんですか?」
「特に何も。ふらっとここに来るのが好きなんです。」
「そうなんですね。俺は少し寝るためにここに来たんですけど雨が降ってきて」
「ここに吹く風は気持ちいいから分かります。」
「雨好きなんですか?」
「どうしてそう思ったんですか?」
「なんとなくです。」
「ふふっ。そうですね、雨は好きです。雨は嫌いなんですか?」
「嫌いまでではないけど、好きでも無いですね。」
「そっかぁ。あ、天気雨って知ってますか?」
「はい、今のように晴れ間がさしてるのに雨が降ることですよね。」
「そうです。天気雨は縁起のいい幸せの前触れと言われているんです。また、いい出会いがあるという意味もあります。」
「じゃあ、いま俺たちはいい出会いをしたってことですね。」
「ふふっ。そうですね。」
「あ、雨が上がりましたね。」
「じゃあ、そろそろ帰りますね。」
「はい。なんか、また会えそうな気がします。」
「私もです。」

息を吸うと、少しだけ雨に濡れた土の匂いとバニラのように甘くて深い優美な桜の香りが鼻を掠め、これから何かが起こりそうな気持ちにさせた。