本日は、3月14日。

恋人からバレンタインに受け取った愛に返礼する日……かも知れないが、僕にとっては、そんな甘っちょろい日ではない。今日というこの日のために、僕は一ヶ月前から、用意周到に準備してきたのだから。

千歳(ちとせ)、このクリームチーズとブルーベリーのベーグルすっごく美味しいー」

「良かった、星川(ほしかわ)さんと美弥(みや)から教えてもらったんだ。それ、この店で一番人気らしいよ」

春風が、吹き始めたテラス席で、カフェラテ片手にご満悦で、ブルーベリーチーズベーグルに舌鼓していた実花子(みかこ)が、急に口を尖らせた。

「何?どしたの?」

「別にっ」

実花子は、パクパクと小さい口を動かしながら、テラス席から見える、大通りの雑踏に視線を移した。

(あぁ、なるほどね)

僕は、気をつけているつもりだが、こうして、気づかぬうちに、実花子のご機嫌を少し損ねてしまうことが多々ある。

でもこのご機嫌ナナメの実花子が、また愛おしく感じる今日この頃だ。