夜は多くの人がこの街、六本木で行方を眩ませる。


俺がやっているホストという職業は夜の職業ということでそういった人を見つけやすい。


ほら、例えばあそこのビルの屋上に人が立っている。彼女はこれから蝶のようにそこから羽ばたくのだろう。


そうはさせないと思い俺はその人がいる場所へと足を急がせた。


 
「早まらないでください。」


脇くらいまで伸びたサラサラと揺らめくストレートヘアが印象的だった。


「私を助けてどうするの。私はあの店に人生を狂わされたの。だから、あの店がバッチリ見えるこの場所で消えるの。」


そう言ってその女性は空中へ一歩足を踏み出した。


その足は吸い込まれるようにビルの下へと身体ごと引きずり込んでいく。


また俺は助けることができなかった…


あの女性が狂わされたという店が気になって視線を移すとなんとそこは俺の働いている店Club Violetだった。