流石の父さんも咲玖のことは断れなかったか…。
「そ、それでは私はこれで…」
「えっもう行っちゃうんですか!?」
「私がいたら、困るだろうから…」
その言葉に、何かがチクリと胸に刺さった気がした。
「なんで困るんですか!?困ることなんてないのに!」
「え?」
「だって青人さん、あんまり会えないじゃないですか。いつもお仕事忙しくて」
父さんは一人別のところに住んでいるし、家族の集まりにもあまり顔を出さない。
じいちゃんがいなかったり、俺が帰ってきた時みたいな場だったら、母さんに説得されて来ることもあるけど…大抵は仕事を理由に断っている。
「私も会えて嬉しいです!てか私、いつか青人さんの美容院に行ってみたいんですよね!」
「え?咲玖ちゃんならいつでも良いが…」
「ほんとですか!?青人さんみたいなカリスマ美容師にお願いするなんて、おこがましいかなって思ってたんですよ!」
「カリスマなんて…大したことはないよ。咲玖ちゃんなら格安で引き受けよう」
「えっ、そんな悪いです!」
「いや、いつも感謝しているから。いつも蒼永の傍にいてくれて、ありがとう」
――…っ、父さん……。
「え?いやそんな…えへへ」
「それでは…」
踵を返そうとする父さんに向かって、咄嗟に叫んだ。
「――父さん!」



