その場にへなへなとしゃがみ込む天野を放っておくわけにもいかず、とりあえず公園のベンチに座らせた。
近くの自販機でレモンティーを買って渡す。


「はい」
「ありがと…これが好きだってよく覚えてたね」
「毎日飲んでたからね」


俺はこれ、甘すぎて苦手だけど。


「ごめん、ほんと助かった…。さっきの人、小学校時代の同級生なんだ」
「へえ」
「って言っても、あたし小学校は3回転校してるから、1年くらいしか過ごしてないしあまり喋ったこともないんだけど…この前ばったり会ったんだよね」


それで覚えてるのがすごいな。


「○○くんだよね、久しぶり、あたしのこと覚えてる?ってただそれだけの会話だったの。
だけど、それ以来学校から出ると必ずあの人がいて…」
「ストーカーってこと?」
「最初は偶然だと思ってたけど、部活が長引いて遅くなった日もいて…流石に怖くなっちゃって。今日は遠回りして帰ろうとしたら、話しかけられてあんなことに…」


レモンティーを持つ手が微かに震え、瞳には涙が滲み出た。


「ほんとに、こわかった…っ。リュウがいなかったら…っ」


天野が泣いているところは初めて見た。
転校することになった日も、涙を見せることはなかった。笑顔でさよならしたいからと、明るく寮を出て行った。