イケメンエリート、最後の独身



 謙人は本当にそう思った。
 萌絵にたくさんの素晴らしい事を体験させてあげたい。
 萌絵の存在はダイヤモンドの原石より謙人には価値がある。
 そして、謙人はそんな思いを抱きながら、タクシーという狭い空間で萌絵の手を握りしめたい衝動をずっと我慢していた。まるで、フラれる事が怖くて何もできない中学生のように。




 アバンクールヒルズ東京の54階のフロアの一番奥の方に、指定されたバーラウンジはあった。
 萌絵は緊張のために足取りが重い。どんなに綺麗に着飾っても気分が乗らない。隙があれば、今すぐにでも帰りたい。
 でも、謙人のおかげで、それでも少しは自信がついた。
 こんなに素敵なワンピースとジュエリーは本当に夢のようで、ほんの少しのつかの間の夢だったとしても、謙人への感謝の気持ちは言葉には言い表せないくらいに膨らんでいる。
 萌絵は謙人のためにも、堂々と自信を持ってバーの入り口へ進んで行くしかなかった。

「萌絵ちゃん、行くよ」