萌絵を見送った後に、謙人は自分の電話番号を教えていない事に気が付いた。
 いつもなら抜け目のない完璧な男なのに、一体どうしてしまったのだろう。
 謙人の心臓に突き刺さった恋の矢は、そのターゲットとなった人間を腑抜けにしてしまう毒か何かを含んでいるのか…

 謙人は訳も分からずに落ち込んでいた。
 萌絵の心をホヨンに持っていかれそうで、心が苦しくてしょうがない。
 謙人は外の空気が吸いたかった。よろめきながら階段を上り、地下から脱出する。まるで失恋をした少年のように。
 柄にもなく、苦しくて切なくて、涙が零れそうになる。
 謙人は自分自身の情けない変化に叫びそうになった。

「助けてくれ~~~」と。