ことだまマンションは若い女性が住むには危険が多過ぎた。
大きな通りから一本細い道に入った場所にある。その小さな通りは一杯飲み屋やスナックがひしめく、いわゆる昭和時代の飲み屋街みたいな場所だった。
謙人は頭痛がし始める。
萌絵はどうしてこんな地域を選んだのだろう。
ことだまマンションという名前も怪し過ぎる。萌絵は、きっと、こういう危険を察知する感覚を持ち合わせていないのかもしれない。
謙人は自分の中で湧き上がる強烈な不安を抑えながら、駅へ引き返した。
この歳になって、こんな想いをするなんて想定外だ。
これが本物の恋なのか…。
謙人は、萌絵の事が気になって心配でたまらなかった。
本音を言えば、もう会いたくなっている。
ピンク色のシャボン玉に包まれた萌絵の姿が可愛くて可愛くて食べてしまいたいくらいに、謙人の頭の中は萌絵一色だった。
そう、残念ながら、答えははっきりと出ている。
俺は完全に恋に落ちたということ。
謙人は普通の生活をしていれば訪れる事もない駅のホームで、一人切なく佇んでいる。



