イケメンエリート、最後の独身



 謙人は、人気の少な過ぎる駅から身動きが取れないでいた。
 萌絵を駅まで送り届けて帰る予定だったのに、萌絵の天然さが心配でたまらない。
 乗り換えの駅で二度ほど迷子になりかけた。
 ガラケーで必死に写真を撮っている間、謙人の事を見失ってしまったらしい。
 謙人自身も萌絵の事を気にかけながら歩いていたのに、振り返るとそこに居ない事がよくあった。その度に謙人はパニックになった。血の気が引くという言葉を初めて実体験した。
 謙人の後ろを歩いているだけで迷子になる萌絵が、10分も離れたマンションまで無事に帰れるとは思えない。
 謙人は自分から遠ざかっていく萌絵を鬼のような形相で見ていた。
 小走りでこちらを振り向きもしないで先を急ぐ萌絵を見ながら、謙人は自分の本能に問いかける。

…お前はこのまま帰れるのか?

…帰れるわけないだろ! 転んだりしてケガでもしたらどうするんだよ。

 見た目は35歳のクールな大人の男性だが、今の謙人は自分を上手く操れない。ティーンエイジャーのように愛とか恋とかいう感情に全てが支配されていた。
 謙人は萌絵が見えなくなった事を確認して、萌絵の後を付いて行く。
 決して、ストーカーの心理ではないと、自分に言い聞かせながら。