「離してください」
それが精一杯の抵抗だった。電話もせずに、それもこんな風に陽気に見える謙人の事が許せなかった。
でも、許せない気持ちよりも、会いたかった気持ちが上回って、訳の分からない涙が溢れ出る。
「明智君はソフィアから聞いてるよね?
しばらく俺は日本を離れる事になったから。
仕事は今までどおりリモートで続けるし、東京の方には李君が完全に駐在してくれる事になってる。
どうしても顔を出さなきゃならない案件には、その時には帰ってくる。
急だけど、そういう事だから、よろしくね」
萌絵は意味が分からずポカンとしている。そんな萌絵の代わりに、ホヨンが質問してくれた。
「日本を離れるって、どこへ?」
謙人は萌絵の横顔を見て微笑んだ。
「まだしっかりとは決めてない。
とりあえず、ドイツに行ってみてから考える。
場合によっては、ポーランドあたりがいいかな、なんて思ってる」
萌絵はやっと事情が分かった。
謙人は萌絵と一緒にドイツへ行くという事。



