イケメンエリート、最後の独身



 そして、謙人からの電話はまだこなかった。きっと、このままフェードアウトする事を望んでいるのかもしれない。
 謙人は、萌絵の口から愛しているという言葉を引き出す事を恐れている。
 萌絵の未来を邪魔したくない。
 萌絵が自分で決めた最高の選択だから。
 そんな風に、きっと、思っている。
 そして、謙人がそうすると決めたのなら、謙人からの電話は絶対にこない。
 萌絵は、不思議とそう納得してしまった。
 会えば気持ちに負けてしまう。
 何がいいのか分からなくなってしまう。
 全てを台無しにしてしまうのなら、会わずに旅立つ事が正解なのかもしれない。
 萌絵はどうしたらいいのか本当に分からなかった。本当に分からないのが悔しくて涙が溢れ出る。
 スーツケースの横で、膝を抱えてひたすら泣いた。
 もし謙人から電話がくるのなら、その時は愛していると大きな声で言いたい。
 それが可能なら…

 萌絵はスマホを浴室に置いて、シャワーを浴びた。
 ドライヤーで髪を乾かす時も、キッチンで歯磨きをする時も、ずっとスマホを近くに置いた。心のどこかで謙人から電話がくる事を願っている。そう思わなきゃ前へ進めなかった。