謙人の事を愛している。
それは紛れもない事実で、その想いはきっと萌絵を想う謙人の気持ちより大きかった。
出来る事なら、謙人と離れたくない。その気持ちを謙人に伝えたい。でも、時間は刻々と過ぎていく。もう今の段階で伝えたところでどうなるのだろう。
萌絵はスーツケースを閉じて、玄関の前に置いた。
持っていく荷物はそんなに多くない。ずっと海外で暮らしていれば荷造りのプロになっている。そういう暮らしから抜け出したくて、日本へ帰ってきたはずなのに。
萌絵は謙人と出会い、謙人に恋をする素晴らしさを教えてもらった。
自分の決めた選択が間違っていたとは思わない。
でも、今は、謙人と離れたくない。その想いはどうしても抑えきれなかった。
萌絵はスーツケースの横にぼんやりと座った。膝を抱え込みその膝の上に右頬を乗せてみる。
どう頑張ってみてもこの寂しさから逃れられない。明日にはここから居なくなってしまうのに。



