イケメンエリート、最後の独身



 その時、謙人ははっきりと分かった。
 今までずっと前田謙人という仮面を被って生きてきたことを。
 広くて浅いストレスフリーな交友関係が自由の証だと思っていた。
 お金を稼いで惜しみなく使う事が、自分の価値を高める手段だと思っていた。
 その自由は、ある意味、楽しかったけれど、心の底から求めている何かではなかった。
 謙人は必死の思いで、突っ伏している体を起こした。そして、隣に座る萌絵を抱きしめる。いや、抱きしめてもらっている?
 謙人は萌絵に守られている。その事実を、保護本能が誰よりも強い狼気質の謙人は認めたくない。でも、認めるしかなかった。

「萌絵ちゃん、ゆっくり話がしたい…
 これからの二人の事を…」

 そんな事を呟いたけれど、未だ、謙人には何もビジョンが見えていなかった。
 でも、二人で話し合えば、きっと、何かいい未来に辿り着くはず。
 そんな呑気な事を考えながら、謙人は萌絵にまたキスをする。誰もいない事を確かめて、レモンの風味を萌絵に届けるために。