「謙人さん、ダメです!
すごい量のレモンを入れたから、喝が入るどころか死んじゃいますよ」
謙人を必死に阻止する萌絵が、それはそれでまた可愛くてしょうがない。
ノックアウト状態というのは、まさにこの事だ。
謙人はそのグラスを持ち上げ、萌絵を見て頷いた。
ちょっとだけマドラーで中身を混ぜ、目を閉じて一気に飲み干す。
「ウォー――!!」
酸っぱすぎて変な雄叫びが出た。強力な酸味と苦みで全ての五感をやられてしまったようだ。
「萌絵ちゃん… 助けてくれ……」
喉の奥の方で何かが爆発したみたいだった。冷や汗と涙が止まらない。テーブルに突っ伏したまま、謙人は身動きがとれなかった。
萌絵は…
萌絵はケラケラと笑っている。
何がそんなに可笑しいのか、萌絵も涙を流している。
涙を流しながら、謙人に冷たい水を手渡した。謙人はその水を勢いよく胃の中に流し込む。それでも、あの変な苦みは取れない。
「萌絵ちゃん… 苦しい…
背中をさすって…」
萌絵はいつものように優しくゆっくりと謙人の背中をさすってくれる。その心地よいリズムは、まるで天使からのご褒美のように謙人を癒し始める。



