謙人は鼻で笑った。加恋ちゃんと結婚して可愛い娘もできたのに、想いはまだ初々しい謙人とまるで変わらない。
トオルは楽しそうに話している萌絵とホヨンを見て、小さく息を吐いた。
「謙人、頼むから、この場で殺人事件はやめてくれ。
ホヨンを殺すのは気持ちの中だけにしてくれよ」
謙人はスナイパーのような鋭い目つきで二人を見つめる。
でも、すぐに穏やかに笑った。
「気持ちの中では百回以上殺してるよ。
でも、現実は、萌絵ちゃんを傷つける事は絶対にしたくない。
そこにホヨンが絡んでたとしても」
トオルは謙人の肩をポンポンと叩いた。
「謙人、凪だってジャスだって、俺だってそうだよ…
心乱されて、頭を狂わされて、今、ここにいる。
でも、その何十倍もの幸せをもらってる。
その幸せを守るために、男どもは必死なわけさ」
謙人は疲れた表情で軽く頷いた。
そんな事言われなくても分かっている。
凪にしてもジャスにしても、あの完璧な明智君だって、恋をしてから穏やかになった。心が満たされているご満悦の表情を、嫌というほど見てきた。
そんなの百も分かっているけれど、頭に心が追い付かない。



