イケメンエリート、最後の独身



「さっき帰りました。私も今から帰るところなんですけど…」

 謙人はそこに立ち尽くしている萌絵を、近くのカフェスペースまで連れて行った。
 ホヨンとの勉強が難しかったに違いない。萌絵の顔には疲労感が滲み出ている。

「とりあえずこれをどうぞ」

 謙人は萌絵のために温かいココアを淹れた。
 謙人の勘ではきっと甘い物が大好きに違いない。だって、ピンク色のオーラで包まれている子だから。

「ありがとうございます」

 萌絵はココアの入った紙コップを両手で包み込むと、大きくため息をついた。その仕草が可愛すぎて、謙人はよろめきそうになる。
 萌絵はココアを一口だけ口に含み、ゆっくりと目を閉じた。二秒ほど経って静かに目を開けると、目の前にいる謙人へ満面の笑みを見せる。
 その満面の微笑みは、謙人の心臓に百本ほどのピンク色の矢を突き刺さした。その痛みは西洋の媚薬のように身体中の力を奪っていく。
 謙人をつかさどる全ての細胞は、完全に萌絵の魅力にひれ伏した。
 もう引き返す方法すらない。いや、引き返すなんてあり得ない。