イケメンエリート、最後の独身

 

 謙人はハッとした。
 ヘッドフォンのボリュームを落とした途端、人の声に気が付いた。
 大きめのヘッドフォンを外しもう一度耳を澄ますと、「…あの」と女の子の声がはっきりと聞こえる。

「ごめん、気付かなかった。何? どうした?」

 謙人はすぐにブースから出た。すると、萌絵がすぐ近くに立っていた。

「あの…」

 謙人は改めて萌絵をじっくり見た。
 さっきの自己紹介の時は、衝撃のあまり、見ているようで見ていなかった。でも、見ていなかったのにこんな調子じゃ、笑うに笑えない。
 謙人にはやっぱりピンク色のシャボン玉のようなものが見えてしまう。そのシャボン玉は、ふんわりと優しく萌絵を包み込んでいる。
 そんな萌絵の色白のプクプクした頬に、眼鏡から覗く大きめの瞳。薄いくちびるさえも、全てが謙人の好みにピタッと嵌まっていた。
 いや、好みがあったのかさえ謙人自身よく分かってないけれど。

「前田さん…
ちょっと教えてもらいたい事があって…」

 萌絵は震えているように見えた。謙人はすばやく周りを見回し、ホヨンがいない事を確認する。

「ホヨン君は? もう帰ったのかな?」

 萌絵は下を向いたまま、小さく頷いた。