初対面の舞衣に対して、凪はめちゃくちゃ冷たい態度で舞衣の心を傷つけた。
それなのに、二人は恋に落ちた。あり得ないほどのスピードで。
謙人は、少しだけ開いているドアの隙間からホヨンと萌絵を観察していると、なぜか気分が落ち込んでくる。
身長は180㎝超え、性格は穏やかで甘いマスクの持ち主の謙人は、男も女も関係なく世界中の人々にモテてきた。
…そんな完璧で余裕たっぷりの俺のはずなのに。
謙人は二人に声をかける事なく、自分のブースへ引き返した。
謙人はよくよく考えてみた。
今までの人生、一度も萌という名前の女の子に出会った事も関わった事もない。きっと、そのせいだと思った。
母親からのくだらない洗脳によって、謙人の体は萌という名前の女の子に過剰に反応してしまうようにプログラミングされてしまった、ということにしておこう。
謙人はホヨンと萌絵の事を深読みしないよう自分を戒めながら、また仕事の続きに取り掛かった。
どれくらいの時間が経ったのかは分からない。
謙人のブースのパーテーションパネルの先の方から、か細い声が聞こえた。
「あの、すみません…」



