イケメンエリート、最後の独身



「ホヨン君もそろそろ帰る頃だと思うんです。
 新しく入った萌絵ちゃんにもその頃には帰っていいよって言ってるんですけど、今日は初日だから、頑張り過ぎてるみたいで。
 それか上手くいってないのか。
 もし、何か質問されたら、謙人さん、フォローしてもらっていいですか?」

 明智君は本当に優しい人間だ。人心掌握術を身につけているとしか思えない。他人の心に寄り添う事ができる人間は、そうたくさんはいないから。

「OK。その時は手助けするよ」

 謙人は澄ました顔でそう答えた。
 でも、心の中はあり得ないほど浮かれている。まるで小さな謙人が頭の中で小躍りしているみたいに。

 謙人は明智君を見送ると、萌絵がいるはずの奥にある会議室を覗いてみた。萌絵の横にはホヨンが座り、片肘ついて萌絵に何かをレクチャーしている。
 謙人はホヨンの態度が気に喰わなかった。態度や表情だけ見ていれば、昔の凪を思い出す。

…あいつ、凪タイプの人間か?

 謙人はそう思った途端、急に不安の波に襲われた。凪は天然キャラで右も左も分からない舞衣を完全に自分の物にした。
 周りの人間に言わせれば、凪みたいな男はギャップで相手を虜にする、いわゆるツンデレ系男子だ。