イケメンエリート、最後の独身



「謙人ちゃん、どうしちゃったのかな?」

 誰も居なくなったカフェスペースで、映司がニヤニヤしながら謙人に擦り寄ってくる。

「な~んか、謙人ちゃんらしくないな~」

 謙人は映司の性格を一番よく分かっている。分かっているからこそ、今日のこの場所に一番いてほしくなかった。
 映司のしつこさには本当に腹が立つ。相手が嫌がっていようがお構いなしだ。

「謙人ちゃん、しょうがないよ。
 このEOCは呪われてるんだ。
 凪と舞衣ちゃんのラブラブウィルスがここに蔓延してる。あそこから始まって、俺も完全に感染した。その謙人が今感じてる恋の病っていうやつにさ」

「恋の病?
いやいや、そういうのじゃないよ」

 …うん、そうじゃない。俺に限っては絶対に。
 すると、映司は謙人の前に回り込み、真剣な目をしてこう言った。

「ううん、そうなんだ。
 でも、そうじゃないって必死に抗いたい気持ちも分かる。
 でも、抗えば抗うほど、恋のキューピットはお前の首根っこを掴んで離さない。ある意味、楽園の中のカオスだよ。
 特にお前は歳を取り過ぎてるからさ、あんまり萌絵ちゃんを愛し過ぎて、犯罪者にならないように気を付けろよ」

「愛し過ぎるって… 何だよ、それ…
犯罪者とか馬鹿か、お前は…」

 謙人の動揺は止まらない。
 今まで真剣に人を愛した事なんか一度もない。男でも女でも親でも一緒だ。自分の居心地がいい、それだけの基準で人と接してきた。