笠井 ミオ、二十五歳。生まれてこのかた、交際相手も居た経験も無い、悲しい悲しい、アラサー目前の社畜だ。

そんななんの取り柄もない私にも、前までは取り柄があった。

それは、笑顔。

笑顔だけは得意で、よく「ミオちゃんと一緒に居ると、楽しいね」と言われていたけれど、その片鱗は何処へやら。

大卒で就職した今の企業が実はかなりのブラック企業で、そんな会社の風紀にもまれ今では笑い方すらも忘れてしまった社畜(わたし)が爆誕した。

サービス残業は当たり前、何があろうと上司より早く出社しないといけない、有給休暇なんてあってないようなもの、お茶汲みは率先してやる、などとブラック企業を絵に描いたような勤める会社が爆発すれば良いのに、と何回思ったのかは、途中で回数を数えるのをやめた。

そんな私に入社時からよく声をかけてくれていた人が、ひとりだけ居た。

うちの会社の大口の取引先の九条グループの代表取締役社長の、九条 ソウマさん。

清潔感があるのはもちろん、その類稀なる手腕でまたたく間にトップ企業に上りつめた若き才能と呼ばれる存在だった。

もちろん、お顔立ちもとても整っていて、うちの会社でも彼の玉の輿にのろうとする女性社員も少なくはない。

私は素敵だなあ、とは思うけれど「好き!!」「結婚したい!!」と思うまでではなかった。

まず、交際や結婚以前にこの社畜生活を何とかしなければ、と考えるだけで薄ら笑いが出てしまうのも悲しい。