平野奈由は、俺にとって癒やしみたいな存在だ。

 教師志望だったのでどちらかというと真面目一方の性格と自覚している。
 
 入った大学の学部には、女子が多く、人数の少ない男子と形ばかりの付き合いをしていた。

 ある日、忘れ物をしてオロオロする奈由に声をかけて助けたのが始まりだった。

 彼女は、俺の周りに群がる女子学生とは少し違っていて、いつも同じテンションでふわふわしている。

 まあ、いろいろと細かい俺と相性は最初から悪くなかったと思う。

 チャキチャキした姉御肌の詩乃が、奈由を導いていた。

 俺は、割と早々に奈由への気持ちを自覚していたが、あの調子の奈由にはなかなか踏み出せなかった。

 だが、奈由以外と付き合うという選択肢は俺の中にはなかったので、いずれ告白するときがくるとわかっていた。

 問題は、奈由に男ができるかどうかだ。その実、奈由はモテる。

 あの調子で学内の男どもににっこりしながら、何でも返事をしているから皆勘違いして、色目を使い出す。

 俺が側にいるときは牽制し、囲い込まれて困っていた奈由を詩乃が一度助けたこともあるらしい。

 3年になってキャンパスが変わり、詩乃は念願の彼氏と同じキャンパスになった。

 俺の気持ちを見透かしていた詩乃は、3年以降は奈由より彼氏優先にするとハッキリと明言した。

 「……なんとかしなさいよね、晴人。ハッキリ言って、あっちのキャンパスは男子が多いし、知り合いは学祭なんかですぐ出来る。ヒデの友達だって奈由と知り合いになる。奈由が好きにならないと言える?」