「榊、お前変装までさせて奈由をよこすとは、いい度胸だな?」

 その日、パーティが終わり最上階のホテルの部屋で俺の横で眠っている奈由の髪を撫でながら電話でつぶやいた。


 「なんで帰ってこないかな、と思ったけどやっぱり見つかったか。そりゃそうだよね。名簿見れば一目瞭然だわな」

 榊は笑いながら答えた。


 「いや、お前のお陰で奈由が結婚したいと言ってきた」

 「……は?なんだと?」

 「今回ばかりは感謝するよ。俺に黙って潜入させたからこそ、彼女の耳に入ったこともあるしな」

 「もしかして、例の大臣の娘紹介されたか?」

 「ああ、奈由がバッチリ見て、嫉妬してくれた」

 「そうか。それはよかったな。おめでとう。長かったな。とりあえず、社長就任前になんとかなってよかったよ。あんまり結婚拒むようなら俺も一肌脱いだ方がお前に恨まれないかと思っていたところだ」

 「そうだな。お前の教えがいいらしく、仕事楽しいと連発してる。これは、俺より仕事を取る気かと思っていたところだ」


 ははっと榊が笑う。

 「貴方は私と仕事どちらがいいの?って女の台詞だぜ。お前大丈夫かよ?」

 「そうだな。大丈夫じゃないかもな。大分前から奈由病という不治の病にかかってる」

 「……認めるのか。まったくまあ、何でもスマートにこなすお前が珍しくいつも引きで攻めずにいるのが本当に不思議だったよ」

 「……お前だってそうだったろ。大事なヤツには嫌われるのが怖くて手が出せない。強く出られないんだ」

 「そうだな。にしてもお前の性格からちょっと意外だった。まあ、彼女の性格を知るとそれもわからんでもない」


 たばこを吸う音がして、ふーっという声がする。