「ファタール王、ご子息のご結婚おめでとうございます。つきましては勝手なお願いなのですが、そちらの令嬢を私に下さいませんか?」

「これはこれは、カズラール皇太子

殿下お騒がせして申し訳ありませんな。ゴールデン伯爵令嬢を欲しいと言われましても彼女も今は傷心しているであろうから傷が癒えてからでも」

「傷ぐらい私が癒して見せますよ、ご令嬢どうか私の国へお越しください」

「カズラール皇太子様」

(とても綺麗なお方ですわ。でもよくも知りもしない方に嫁げませんわ、それにもう王族は無理ですわ。
また辛い思いはしたくない怖い)

 マリアは何とか穏便に断ろうと笑顔を顔に貼付けて今にも倒れそうな体を意地で堪えていたが、手を握られ倒れてしまうのをティカーに抱きとめられた。

「マリア嬢!大丈夫ですか、気を失ってるだけかよかった」

 ティカーは腕の中のマリアが傷を負わなかったか顔を青ざめさせ心配し、怪我ないとわかるとマリアを強く抱きしめた。

「カ!カズラール皇太子陛下、ゴールデン伯爵令嬢お二人共大丈夫ですか…っ!?」

 ファタール王は慌ててティカーに声をかける、マリアを強く抱きしめていたティカーは顔を上げ大丈夫だとファタール王に言う。安心したファタール王がティカーにではマリアを休ませたいのでこちらへと言うとティカーはファタール王を睨み拒否した。

「カズラール皇太」

「ファタール王、私はどうしてもマリア嬢を連れ帰りたいのだ今は傷が癒えず私を拒否していても彼女を支え私を知って欲しい」

 ファタール王は『衛兵、カズラール皇太子よ捕らえるのじゃ』と必死にティカーを、止めたが騎士達や周りに居た者誰一人彼には勝てなかった。ティカーはそのままマリアを抱き抱え煙りのようにあっという間に消えてしまった。

 ティカーがマリアを連れ去った後、夜会はお開きになり周囲やマリアの両親は連れ去れたマリアの安否を心配し重々しい空気だったと言う。

 一方でマリアを連れ去ったティカーはというと気を失うマリアを抱き抱え自国に到着していた。

 ティカーの帰りを待っていたメイドが、ティカーの抱えている物が人であることに気がつくと青ざめゆっくりとマリアをベッドに運ぶように震える声で告げた。

「テ、ティカー坊ちゃん!。こちらのお嬢様はどちらの姫君なのですか、まさかこの姫君がマリアお嬢様なんですか!?坊ちゃんもしや誘拐なさったんじゃ……。」

 ティカーはふんっと鼻で笑った後にメイドの顔を見て、腕の中のマリアに視線を送った。そしてゆっくりとベッドに近づき。

 その言葉に反論する、ティカーがマリアをベッドに寝かせ、額にキスをした後にっこり微笑んだ。

「プリシラ、私をゲスの極みみたく言わないでくれ。えぇ彼女が例のマリア嬢です、ずっと手に入れようと策略を練ってようやく手に入れたんです」

  プリシラは、ご機嫌なティカーと違い青ざめた顔で他国から正式に婚約も交わさず婚約破棄された直後の令嬢を誘拐してきた主に絶望していた。

 こんなことは全く考えても見なかった。

  普段のティカーは、大人しく氷の麗人と言われており冷静で賢い方だったのに。

 プリシラはティカーの義理の姉にあたる、幼い頃にティカーの母君メルティナ王妃の双子の姉がなくなり養女になったが姫として扱われるのを嫌いティカー専属のメイドとして働いている。付き合いが長いためティカーと隣国までよく付き添っていたのでマリアを想うティカーの気持ちも知っていた。

 あの時留守番などせずに借りにも姉なのだからこの日ばかりは、甘えて姉として同席しティカーを止めるべきだったと頭を抱えた。

「可哀相なマリア様、大丈夫ですよわたくしが帰して差し上げますから」

 その後のプリシラは、気を失ったままのマリアの看病を丸三日していた。そして同時に毎日見舞いに来るティカーに早くマリアのご両親に連絡し彼女を帰すべきだと口論しつづけた。

ティカーは両親には手紙を送った彼女に両親と合わせるのは、私の物になってからにしないと

彼女に逃げられてしまうと言った。

 目が覚めるとマリアは、豪華絢爛な見覚えのない部屋に寝かされており慌てて起き上がろうとしたら手を捕まれた。

「ここは何処?貴方は、カズラール皇太子殿下」

ティカーは、マリアの手をつかんだままおどおどと不安そうに目を覚ました彼女を眺めていた。ちょうどそこへプリシラがやってきて目を覚ましたマリアに深々と頭を下げて『申し訳ありませんうちの皇太子がご無礼を』と言うとマリアはプリシラに頭を上げるように言った。そしてプリシラはマリアに飲めますかと水を渡すとティカーが私が飲ましてあげましょうかと輪って入ってきた。

 「えっとプリシラ様、お水ありがとうございます。つかぬ事を聞きますが私はどのくらい眠っておりましたの?」

「マリア様は、三日ほどお眠りになっておられましたがお目覚めになられてよかった」

 水を一口飲み不安そうに震えて、か細い声でプリシラに尋ねる姿にプリシラは申し訳ありませんと何度も誤りながらマリアが三日も寝たままだと告げるとマリアは、両親に会いたいと泣き崩れてしまったティカーがハンカチを渡そうとすると、プリシラが今は出て行けとティカーを追い出した。 その後マリアが落ち着くまで静かに背中をさすったりお水を入れ直したり、プリシラはマリアを支えた。

 それから数ヶ月後には、すっかりマリアはプリシラに懐いていた。



 両親にもあの後数日後に話し会いをしてしばらくこの国にいることにした。



 プリシラは、心配して嫌なら帰ってよかったのに皇太子の事は気にしなくていいからと言っていたがお世話になったプリシラに恩返しが

したいのと彼女と仲良くなりたいと思ったから

マリアはとどまることにした。

 

「プリシラ様、お茶がはいりましたわよかったらご一緒………きやっ!!」



 はっと気がつくと、ティカーに抱きしめられていたのだった。



 あれからよくプリシラとお茶をしたり手伝いをしたりなどしているのだがその度に、ティカーに付き纏われている。



 プリシラがほうきでティカーの足を叩くと

ティカーはぱっとマリアを離して、プリシラと

口論を始めるそれを見ながらマリアがくすくす

笑う穏やかな日々が流れている。

「マリア様、どうしたんですか?」

「なんで笑ってるんですか」

「お二人が仲良しだなと思いまして」

  三人でテーブルを囲い焼きたてのアップルパイと紅茶を頂きながら楽しいティータイムを送っていると数ヶ月前のことが夢のように思えてくる。

 今頃マントゥールは、大国の王妃の13番目の婿になっているのだろうかざまぁですねと思ってしまう。

 たまに届く王妃様からの手紙には、ノアは国外追放された後国境の森の近くで奴隷商に捕まりワラよりも安い値段で貴族に買われて朝から晩まで龍舎で炎龍の世話をしているらしい。

 国境近くの特産の炎龍は狂暴でなかなか人に懐かないらしいから可哀相に仮にも元聖女なのにと、マリアはざまぁ半分混じりながらも可哀相に思っていた。

「マリア嬢、ぼうっとしてもしかして私に見惚れていたのかな」

「いいえ!、昔の事を思い出していただけですわ」

 マリアの冷たい態度にティカーは、必ず貴女を落としてみせると艶っぽく微笑むのだった。