侍女も護衛も公爵令嬢だからと甘い扱いなど一切取らない地獄の警護をおこなっている。

下手な争いや未来の王妃が品格がないなど国の恥になりうるからであり、おぐしなおしやお花つみ以外は護衛が付きまとう。

 つまり、王族婚約者は王妃教育のため余程の事がないかぎり他の生徒に近づけないし、護衛と侍女無しにはどこにもいかせてもらえない。

 だが、マントゥールは勝ち誇った顔でマリアを指さしたのだった。


「言い逃れなどできないぞ、お前はノアの教科書を破いたり、水をかけたり、階段から突き落としたりしただろ!」


 そう言い切るマントゥールに目をやれば、後ろでしがみつき涙ぐむ令嬢がマリアを睨みつけている。

(この女が、ノア男爵令嬢ね?)


「マリア様!、わたくし怖かったんですよ。私のマントゥール様に近づくなって脅してきて」


 (この女よくもすらすら嘘を)


 この方は、借りにも貴族だったはず
男爵家の令嬢なら知らないはずがないのですが。ノアの後ろの侍女や取り巻きは思い出したがもう手遅れで助け舟もだせずに青くなりフラフラだ。自分の主人が没落していく姿が目に見えて今にも倒れそうだ。


 (お気の毒様です。問題ありのご主人様を持つと大変ですね。わかりますわ、問題児なら私も知ってますわ)

 そこでふとマリアは後ろから悪寒がしたので、振り返ると隣国の王族の方まで来ていてこちらの様子を実ながら笑っている。

(あれは確か、隣国の王太子のティカー・カズーラル様……これは我が国の恥をさらしてると笑われてもしかたありませんわ。招待された国の王太子が馬鹿すぎて隣国との繋がりがなくなったなんて笑い話にもならないではありませんか!?)


「そんなに震えても、罪は無くならないぞ!」

 マントゥールの勝ち誇る叫び声に、そんな事より今はこっち!とティカーからマントゥールに目線を移す。


「つ、罪!証拠も無しに婚約者を罵倒し頬を叩くだけではあきたらず、騒ぎ立てて皆を混乱さし王族としての立ち振る舞いが心配だと震えておりましたの。私は、学園で一度も一人の時間などございません王妃教育のために私は学園の送り迎えや教室や休み時間の移動も護衛と侍女と行動し休みの日は丸一日城ですごしており睡眠時間すらわずかな私に名前も知らない令嬢をいじめる時間などございませんが!」


「学園でも時間がなく、休みの日も王妃教育!」


 ノアがこんなの聞いてないと爪を噛みながら、キッとこちらを涙目で睨んでいる。


「見苦しいですよマリア様」


「そ、そんなの知らないぞ王族がそんな事するわけない言い訳ならマシな嘘をつくんだな」

 本当にこの男は、婚約者に興味がないんですね王族ともあろう人が知らなかったなんてそれだけノアに夢中になっていたのでしょう。しかし当たり前だとおもってましたが、ほぼ軟禁状態で休みもなくって怖い話だったのだろう周りに居た令嬢やらが青ざめながら心配している。

「本当に私に興味ありませんのね、証拠ならございますわよ」

「証拠だとそんなものあるわけないだろ」

「発言の許可を頂きありがとうございます、マントゥール様にもお伝えしてありましたよ。」

「メイドなんかなんの証拠にもならないぞ、マシュー下がれ」

「こちらの公文書にサインなさっているので、そんなはずはないと思うのですが」

 マントゥールの専属メイドのマシューがポケットから一枚の紙を取り出したそれには、はっきりとマントゥールのサインがあった。

(さすがは王室のメイドだ敵に回したくないタイプですわね!この公文書には私が話したこととなどそのほかの注意もきちんと記載されていて、マントゥール様のサインもきっちりありますわ。血の誓いで書かれてますわ《血の誓い》とは、この公文書に誓いを立て理解したということを魔力をこめた血でサインする事である)

 それにしてもあらためて文字にされるとブラックな教育の証拠見たく見えちゃいますね。

「こちらで証拠になると思うのですが、マントゥール様!いかがでしょうか私の言った事が事実なのをご理解いただけましたか?こちらは王族につたわる血の誓いで書かれた代物ですから
マントゥール様の字で間違いないはずですわ」

(自分の間違いを認めてもらいますわよ)


「「「な、な、な…!マリアー貴様!!」」」


 マントゥールは悔しそうに下唇を噛みただ叫び自分は間違っていないと呪文のように繰り返しているのをノアが手を握り耳元で何かを、囁いているだけだった。

「お待ちになって、ねぇ、マシュー様?その公文書私にも見せて下さいませんか字が小さくて読めなくて?」

 ノアがずいっと前に出て、マシューから書面を奪い取る。

「え、っと?ノア様読めなかったからと言って公文書を取り上げられてわ困りますわ」

「黙れマリア!ノアはお前と違い繊細なんだ勇気を出してお前の前に立っているんだぞ、体調に問題が起きても不思議ではあるまいそれとも近くで書面を見たらいけないのか?」

 そんなやりとりを見て、周りがどよめき会話を始めた。

『婚約者がいらっしゃるのに、他の令嬢を連れていらっしゃるなんて』

『マリア様がブジャルド男爵令嬢を、イジメたんですって護衛もいらっしゃるのにそんな事できるのかしら?』

『マリア様噂によるとそうとうな悪役令嬢らしいですわよ、護衛に色仕掛けたかをして』

『根も葉も無い噂でしょうそれは?』

『もちろんですわ。だって侍女たちの待機するそれに護衛騎士だってついてますのよ?私達に挨拶するのも一分以上話してたら護衛に睨まれますもの』

『ああ、確かにそうだよなじゃ男爵令嬢と公爵令嬢に、接点はないんじゃないか?』

『また王太子のワガママではなくって』

『ノア様って、他にも婚約者のいる王太子の取り巻きの方とよく一緒にいらしゃいましたわよ』


『『『それより、妖精姫と呼ばれる
マリア様が醜い悪女とか無理がある!!』』』』

 そんなひそひそ話を小耳に挟みながらも、マリアはマントゥールを見据え、徐に扇子を広げた。美しい漆黒のレースでできたものでざわざ彼女のために王妃が隣国から取り寄せたものだ。


(まだ諦めてないのですね、マントゥール様)

「いいえ近くで拝見なさってかまいませんが、丸めたりシワをつけたり破かれては困るだけです」

「ノ、ノ、ノア…は、……体調が悪いんだぞ丸めたってわざとではないそれにコレは偽物ではないかこれは《血の誓い》に見せかけたマシューの書いたものだ」

マントゥールが震える声でマリアを止めようとするが、マリアはミリアムの視線をしっかり掴んで離さない。美しいアンバーの瞳がミリアムに微笑みかけ、ミリアムは思わず頬を染める。

(今のわたくしはディアナ様の侍女です。質問に答えないわけにはいきません)

「ええと…。マントゥール様こちらは、本物ですわよ。それにいけませんわ皆の前で《血の誓い》を破ってはいけませんわ」

 眉を顰めて見ていた人々が息を呑んだ。

 マリアが扇子を閉じるとふわりと公文書の欠片たちが宙を舞い光り輝き元の形に戻っていき、書面のサインが赤く光り輝ている。

 皆がマリアの美しい魔法に見惚れていたが、ふと我に戻ってマントゥールを敵と見做したようだ。


「くっ、そっ、それは私の字に間違いない」


「マ、マントゥール様!きっとマリア様がマリア様が魔法で公文書の字を書き換えてマシュー様に渡したんですわ!二人はグルよ」


「それはできないこの公文書の字は、父上…国王殿下の字でサインは私の字だ。どちらも《血の誓い》で書いてあるマリアの扇子は母上から王妃の魔力が込められているから戻せたのだろう?」
「えぇそうですわ!こちらを復元できたのは、扇子に王妃様の魔力が込められているからですわ。それに王族の公文書を書き換えるなどただの貴族令嬢でしかない私の魔力では不可能ですわ」


「お前の言い分はわかったが、お前の処分は父上に任せよう」

マリアは少し考えて咳ばらいをした後に。

「処分ですか?やはりこれだけ言ってもまだ私に罪を着せたいのですね」


 暴走したノアが止めるマントゥールを振り払ってつかみかかってきて。


「マリア様!罪を認めなさいよ」

「い、痛いですノア様」


(国王殿下が味方すると思って、おかしな行動に出た訳ですね。本当に馬鹿ですわ)

「我が誰を処分するのだ!」

 静かに響いたその声に、周囲もしんと静まり返った。

 人混みの後ろから一際通る声が響き渡り、マリアは頭を下げ後ろに下がった。

(この声は国王殿下でいらっしゃいますね。どうしましょう。お先真っ暗ですわね、罪に問われるのはお二人ですわよ。ざまぁですわね)


そんな中マントゥールはーー。


「父上!それはここに居るマリアを父上が」

「何?」

 人混みがさあっとカーテンのように開き、国王殿下と騎士達がこちらへ来ると騎士達がマントゥールとノアを取り押さえた魔法を使われないように手枷をされた二人に周りがざわめく。

「今まで甘やかした付けが回ったのか、優しい婚約者に冤罪をかける愚息に育てしまったとは」

「ち、父上!悪いのはマリアです。ですから早コレを外しこの者達をマリアの方へ」

(今更味方なんぞ居ないことに気がつくなんて、馬鹿を通り越して可哀相な人ですわね)


 暴れわめき立てるのを騎士達に押さえられながら、マントゥールが必死に叫びもがくが国王殿下はため息をつくと静かにこう口にした。


「我が息子マントゥールは、王太子の座を降り王位を剥脱するそして第二王子が次期国王となる。加えてマントゥールは大国の王妃の13番目の婿に送る事にしブジャルド男爵令嬢は聖女の聖力没収と国外追放とする」


 国王殿下の衝撃の処分に泣き崩れるノアに、口を空け気絶するマントゥールを横目に今宵の夜会は幕を閉じるかと思われたが。