やがて、ハルベリー伯爵が連れてきたらしい従者、護衛の騎士たちが物々しく集まってきた。馬の嘶きの声が聞こえ、続いて豪奢な馬車もオンボロ屋敷の前に停車する。
 ハルベリー伯爵はさっと馬車に乗り込もうとして、アルベルティーヌに手を伸ばした。

「さあ、アルベルティーヌ。あの馬鹿王子のこともすぐに片が付くだろう。こんな田舎に用はない。帰るぞ」

 驚いた顔をしたダグラスが、パッと顔をあげた。

「閣下! そう急に帰ると言われましても、アルベルティーヌ様にも準備というものが……」
「構わん。この屋敷に何か必要なものがあれば、あとで人をよこせばよい。ダグラス・ナリー、お前も一緒に帰るぞ。そなたのハルベリー家への忠誠、高く評価する。約束通り、次期騎士団長の座に推薦してやろう」
「今は、俺の出世の話なんてどうでもいいんです! 俺はただッ……」

 なおも言い募ろうとするダグラスの言葉に耳を傾けようとせず、ハルベリー伯爵はアルベルティーヌに目を向ける。早く来い、と言わんばかりの表情だ。
 まさかの急な展開に、パメラは慌てふためいた。

「ええっ、アルベルティーヌさん、帰っちゃうんですの!!??」

 この国の王子相手に大見得まで切ったのに、このままではパメラはこの屋敷から追い出されてしまう。
 涙目でアルベルティーヌを見つめるパメラに、アルベルティーヌはふっと微笑んでみせた。彼女の意志は決まっているようだ。
 アルベルティーヌは優雅な足取りでハルベリー伯爵の前まで歩み寄り、おもむろに両手を組んだ。

「お父さま、お願いがあるの」
「なんだ」
「わたくし、ロバート殿下の一件が完全に決着がつくまで、ここに身を寄せようと思っているわ」
「アルベルティーヌ! 本気で言ってるのか!?」

 ハルベリー伯爵は、眼を見開いた。「この田舎に残りたい」と返されるなんて思ってもいなかったのだ。