アルベルティーヌがハッとした顔をした。

「お、お父さま!?」
「アルベルティーヌさんのお父様、と言うことは、ハルベリー伯爵様……!? どうしてここに……」

 パメラは困惑した。ハルベリー伯爵ことフォーラン・ハルベリーは貴族派の筆頭である。アルベルティーヌと同じく、このようなしがない田舎のオンボロ屋敷に本来現れるはずもない大貴族だ。
 ロバートが青い顔をしてブルブルと震え始める。

「は、ハルベリー伯には絶対バレないようにしてたのにぃい……! もうおしまいだ……!」

 ロバートはへたり込む。
 ハルベリー伯爵は走り寄ってきたアルベルティーヌをかたく抱きしめたあと、憎しみをこめてロバートを睨みつけた。

「殿下がもし怪しい行動をとることがあれば、すぐに儂に知らせるよう、あらかじめ城の者たちには言い含めておりました。しかし、ここまで卑劣な真似をなさるとは……」
「ど、どうして僕の居場所がわかったんだ……」
「畏れ多くも、殿下の考える程度ならある程度予測がつきますゆえ。……長らく義親子の関係だったのをお忘れですか?」

 ハルベリー伯爵の冷たい一瞥に、ロバートが情けない悲鳴をあげる。百戦錬磨のこの国の宰相が、ロバート程度の小物を震え上がらす程度、造作もないことなのだ。
 ハルベリー伯爵は大きなため息をついて、ロバートの護衛騎士たちに命じた。

「お前たち、殿下はかなり動揺されているようだ。宮廷に連れかえり、軟禁しろ」
「し、しかし!」
「……お前たちにはチャンスをやろう。ハルベリー家の一人娘を冒涜した無法者としてその評判を下げたいのか、王子の乱心に振り回された哀れな忠義者と扱われたいか。……皆まで言わずとも、選ぶべき道は分かるな?」
「……はい!」

 ハルベリー伯爵に命令された護衛騎士たちは慌てた様子で頷き、ロバートを拿捕する。ロバートは「僕はこの国の王子だぞ!」と喚いたものの、あっという間に馬車につめこまれ、あっさりと連行されていってしまった。