運命お断り!





「おっはよー、恵奈ちゃん!」
「おはよう、ございます……」

恵奈が個人スペースから降りると、すでに起きていた圭吾から挨拶される。
呆気に取られつつ、恵奈は会釈を返した。

(そっか。一緒の部屋ってことは、寝起きとか全部見られるんだ。恥ずかしすぎる……)

恵奈はそそくさと洗面所へ向かい、顔を洗って髪を整えた。

「恵奈ちゃん、朝食は食堂に行く? それとも部屋で?」
「えっと……、食堂で食べます」
「じゃあ、俺も一緒に食堂に行こ〜」

圭吾は明るい調子でそう返答し、蛇口で注いだ水をゴクゴクと飲み干した。
見ると彼の格好はTシャツにハーフパンツ。額や首筋は汗ばんでいた。

「浅利くん、もしかして走ってきたんですか?」
「うん、そう。俺、昔から朝のランニングが日課なんだ」
「そうなんですね……、すごい」

(朝からランニングとか、陽キャの極み……。やっぱり私たち、合わなさそう)

恵奈は口もとをひきつらせ、「はは……」と薄い笑いをこぼした。

「恵奈ちゃんは? 趣味とかないの?」
「……とくにないです。得意なこと、何もないし」
「ふーん。じゃ、良かったら今度一緒に走らない?」
「えっ!?」

思いもよらない提案に、恵奈はギョッと目をむく。
圭吾はシンクに手をつき、楽しげな様子で恵奈を眺めていた。

「走ると気持ちいいよ。嫌なこと忘れられて、スッキリするし。一日を気持ちよく迎えられるよ」
「そう、ですか……」

圭吾は再び蛇口をひねり、コップに水を注ぐ。
そしてまたそれを飲み干した。

「ぷはっ。……うん、まぁぶっちゃけるとランニングの良さなんてどうでも良くて。俺が恵奈ちゃんと一緒に走りたいんだ」
「っ!!」
「ま、気が向いたらでいいよ。じゃ、準備できたら食堂行こう。俺、軽くシャワー浴びてくるね」

圭吾はまた笑顔を向け、洗面所へと消えていった。

恵奈は頬にそっと触れてみる。
それはいつもより少し熱を帯びている気がした。

(ち、違う! これは、予想外のことを言われたから……、びっくりして、赤くなっちゃっただけだから!)

恵奈は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、準備に取り掛かった。