部屋の壁に掛かった時計を見た。

時刻が19時を回っていた。

『そろそろ帰るね。』

『だな。駅まで送ってく。』

『ありがと!』

『行こう。』

こういう時に遠慮はしない。

お礼を言って送ってもらう。

ちなみにあたしは、ヨウの家の最寄り駅から、3駅ほど隣の駅の近くに住んでいる。

電車だと10分くらいだけど、歩いて帰るには遠い。

帰ると決めたあたしは、教科書とノートを通学用のリュックにしまった。

ヨウと一緒に部屋を出て階段を降り、玄関へと移動した。

玄関で靴を履いていると、ヨウのお母さんから声をかけられた。

あたしは気がつかなかったけど、帰宅していたようだ。

『ミツバちゃん来てたのね!ご飯食べてかない?』

しゃもじを片手に、キッチンの入り口から顔を出している。

ヨウの家は4人家族。

お父さんにはまだ会ったことはないけど、お母さんにはよく会う。

『こんばんは!ありがとうございます!けど、家にご飯あるので!』

笑顔で元気良く答えた。

別に彼氏の母親が相手だから、愛想よく振る舞っているわけではない。

『おい、母さん。ミツバに絡むなよ。』

ヨウが鬱陶しそうに顔をしかめた。

『えー。お母さん、ミツバちゃん好きなのよ。かわいい子じゃない!ヨウもハンサム顔なんだけどねー。』

『ほんとやめてくれ…。』

そう言って困り顔のヨウは、母親をキッチンの奥へ押し戻した。

あたしはこの愉快なお母さんが大好きだ。

ヨウとの会話が毎回おもしろい。

『また遊びに来てね!いつでも泊まりにおいでーよ!』

『はい!ありがとうございます!』

『もう絡まないでくれ…。』

ヨウは困り果てている。

玄関からキッチンの方を見た。

…ツクシくんはいない。