あたしはこれまでの出来事を全て話した。

ヨウとの関係のこと。

ツクシくんとの過去のこと。

あたしの最低な行いも。

2人のことを大切だと思っていることも。

お泊まり会のことまで、全部を話した。

モトコちゃんは、時折り頷きながら、黙って聞いてくれた。

『…ふんふん。』

『って、感じなんだ…。』

全てを話し終えた。

話を聞き終えても、目の前にいる最低な人間のことを、モトコちゃんは一切責めない。

沈黙が続く。

しばらくして、モトコちゃんは口を開いた。

『うーん、それはタイミングが良くなかったねぇ!うんうん。色々とねぇ!』

『…へっ?』

モトコちゃんのいつも通り過ぎる明るい口調と、予想外の言葉に、思わず変な声が出てしまった。

そして、モトコちゃんは当然のように続けて言った。

『別にねぇ。ミツバちゃんは悪いことしてないよぉ。』

『なんで?ツクシくんが好きなのに、ヨウと付き合ったりして…!でも、ヨウのことも好きで…。2人を傷つけてる…。』

『それは、あの兄弟が望んで取り合いをしてるだけだよぉ。』

『…。』

『でもねぇ…。はっきり、とはした方がいいかもねぇ。』

『うん…。』

関係をはっきりとした方が良い、当たり前のことだ。

みんなそうやって、はっきりさせてから、恋愛をしている。

あたしは何も言えず、下を向いてしまった。

すると、モトコちゃんが陽気な声で歌い始めた。

『チャラララララぁ〜♪』

『マ、マジック…の音?』

『最近、ツクシくんから教わってるんだよぉ。』

『マジックを?いつの間に!知らなかったんだけど!トランプのやつ?』

『違うよぉ。ジャグリングだよぉ。』

『マジックじゃないんかい!』

『ここに水族館の入場券と遊園地のチケットがありますぅ。えいっ。』

パチン。

モトコちゃんは2枚のチケットを持って、ヒラヒラと振った。

そして、指を鳴らした。

だけど、特に変化は無い。

あたしは何度も目を凝らしたけど、何の変化もない。

『えっ…?やっぱりマジック?何も起きてないみたいなんだけど…。』

『この2枚をねぇ。ミツバちゃんにあげるんだぁ。』

『えっ…?なんで?』

なぜかモトコちゃんは、握っているチケットをあたしに渡した。

反射的に受け取ってしまった。

理由が分からず困惑していると、モトコちゃんが説明を始めた。

『お友達からもらったんだよぉ。でもねぇ、もっともっと、有効な使い方を思いついたんだよぉ!』

『使い方…?』

『遊園地と水族館。ヨウくんとツクシくん。ミツバちゃんは、それぞれの場所に行きたい方と行って来てねぇ。』

『な、なんで?』

『このままは良くないからねぇ…。それぞれ1人ずつとデートをしてから、どうするかを決めたら良いんだよぉ!』

『な、なるほど…。』

『ヨウくん達には、私からこの提案のことは言っておくよぉ。だからミツバちゃんは、2人に行きたい場所を伝えるだけだよぉ!』

満面の笑みでモトコちゃんは言った。

最低のあたしに、こんなにも最高の友達がいる。

それだけはラッキーだなって思う。

念のため、尋ねた。

『…でも、いいの?モトコちゃんが貰ったチケットなんでしょ?』

『私はねぇ。笑顔のミツバちゃんが好きなんだよぉ。ツクシくんとヨウくんの問題は早く解決して欲しいんだよぉ。』

『モトコちゃん…!』

『だから、遠慮なくチケットは使ってねぇ!ついでに楽しんできてねぇ!』

『うん。分かった。ありがとう。もう2人から逃げない。会ってくる。絶対、今度なんかお礼するから!』

『楽しみにしとくねぇ〜。』

モトコちゃんはいつもの笑顔で、手を振ってくれた。

その姿を目に焼き付けたあたしは、教室を出た。