あたし達は駅に向かう為、住宅街の中を歩き始めた。

ヨウと2人きりだ。

日曜日の住宅街は、子供達の遊ぶ声とかで、もっと騒がしいと思っていたけど、そんなことはなく、静かだった。

駅に到着するまでは、15分くらいかかる。

時間は十分にある。

伝えるなら今がチャンスだ。

絶対に泣いちゃダメ。

心を無にして、用意した言葉を淡々と言おう。

決心したタイミングで、ヨウが口を開いた。

『ありがとな、来てくれて。楽しかったよ。』

『あたしの方がありがとうだよ。』

『また来てくれよ?母さんも楽しそうだし。』

『あのね…、ヨウ。』

『…どした?』

不思議そうな表情で、ヨウがあたしのことを見てる。

心を無にするだけだ。

企業の広告と思われるポスターが無造作に貼られた電柱の真横で、あたしは立ち止まった。

『あたし達、別れようよ。』

『…急にどうしたんだ?』

ヨウの心配そうな声が聞こえた。

あたしはヨウと顔を合わせないように、道に落ちている誰かの手袋を睨んだ。

落とし物の手袋に対しては、何の恨みも無いけど。

苦しくても、話を続けないといけない。

『あたしね、最低なんだ。ヨウと付き合う資格なんか、ないんだ。』

『もしかして、夜中にツクシの部屋に行ったことと関係があるのか?』

『起きてたんだね。』

『隣の部屋から話し声と泣き声がして、気づいた。何かあったのか?』

『何もないよ。あたしが最低な人間ってだけ。誰かから優しくして貰う価値がないの。だから、別れようよ。』

『別に、ミツバがツクシを好きってことは知ってるぞ?ほら、歩こう?電車、乗り遅れるかもだから。』

そう言ってヨウは、あたしの背中をポンと触れた後、歩き出した。

その後を追いかけるように、あたしも足を動かした。

重い足を無理に動かした。

一瞬だけヨウが先に進んだけど、すぐにあたしの横に戻って来てくれた。

『そう…なんだ。なおさら、別れないと。』

『理由は分からんけど、俺と付き合ったってことは、ある程度は好きってことだろ?俺はミツバが好き。何の問題もない。』

『なんでよ?問題しかないじゃん…!』

『少なからず、ミツバが俺のことを大切に思ってくれているのは知ってる。』

『でも!あたしは2人の間をフラフラしてる最低な…。』

『そして、俺はミツバが大好きだ。ちゃんと見てるよ。ずっと。ずっとな。』

力強い言葉と共に、力強い目をしたヨウが、あたしの方を見た。

別れないといけないのに。

ヨウもあたしに優しくする。

あたしを赦そうとする。

『ううぅ…。』

『泣くなって。とりあえず、別れるかは保留。俺は別れたくないし、別れる理由なんかどこにもないと思っている。』

『…。』

『それでも気持ちが変わらないなら。ミツバ自身が自分を許せないのなら。その時は相談して。』

『ヨウ…。』

『その時に関係が変わったとしても。関係がどんなものであっても。ミツバの味方なことには、変わらないから。』

『ありがと…。』

あたしはお礼を言った後、両手で涙を勢いよく払った。

今はこの関係について、どうすることもできないみたいだ。

駅が見えてきた。