そしてバラ園に差し掛かると、優陽が立ち止まり、鞄の中に手を入れてなにかを探し始めた。

 なにも聞かずにわたしは近くにあった桜の木を見上げる。


「あのさ、緋莉」

「ん?」


 振り向くと、一陣の強い春の風が吹き抜けた。

 宙を舞う桜の花びらに巻かれ、わたしは思わず目を閉じる。


「これ、クリスマスに渡せなかったプレゼント」


 目を開けると、そこに優陽の右手が差し出されていた。手のひらに乗っているのは、リボンがついた縦長の小箱。


「あ、ありがとう」


 なんとなく予感はあった。だから――。


「実はわたしも今日、あのときのプレゼント持ってきてて……」


 わたしも鞄から包みを取り出すと、優陽がくすりと微笑って言う。


「ルカさんの誕生日って聞いたからさ。今日ここで渡そうって決めてたんだ」


 お母さんだけでなく、居なくなったお父さんのことまで気にかけてくれるなんて……この人を好きになって、ほんとうによかった。