今日は秋晴(あきば)れ。

道を通ると虫(むし)の音(ね)が、りー、りーと良く通る。

その澄んだ響きは、心の奥にある硬いものを溶かすようで心地よい。

ここは神奈川にある小さな山。

先生達と小学生の子ども達が、山の上にあるキャンプ地まで歩いている。

先生「ほら、もうすぐだよ。がんばって」

後ろから先生の声が聞こえる

「もうへとへと」

「腹へったー」

とばてている子、

列を乱して制せられる子、

興味のなさそうな子、

子どもも色々。

子ども達が道を進んでいくと、帽子をかぶったおじいちゃんが前からやってきた。

おじいちゃんは列の横をすり抜けていく。

そして背の高い男の子の頭にポンと手を乗せた。

背の高い男の子「?」

男の子がおじいちゃんの顔を見ると、おじいちゃんはしばらくニコッと微笑んでいたが、

そのまま去っていった。

後ろから他の子が、

「お前、あの人と知り合いなの?」

と聞くが、男の子には全く記憶のない人だった。

「変な奴」

他の子供達が口々に言う。

先生達はその様子を不思議そうに眺めていた。

おじいちゃんがいた事など気づかなかったかのように。

背の高い男の子はその晩、夢を見た。

真っ暗闇の中、石が浮いている。

その上には足を組んで、遠足の時のおじいちゃんが座っていた。

※この話は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切、関係ありません。