【顔合わせ】

「はやく着きすぎちゃったかなぁ....」

いつも早めの行動を心がけているけど周りからは真面目すぎって言われるし.....

流石にまだ相部屋の子も来ていないだろう

「ガチャッ...」

ドアを開けると予想通りまだ相部屋の人は来ていないらしい

今のうちに荷解きをしたり、できることは先に済ませよう

とりあえずこんなものかなっ!

と大体の配置が完了し、空っぽになったダンボールを折りたたんで紐で結ぼうとした時だった。

ピンポンパンポーン

放送が始まる合図で私は作業する手を止め、耳を傾ける

「もうすぐ入学式が始まります。生徒の皆さんは体育館に移動してください」

そんなに時間が経ってたんだ....

荷解きに集中しすぎて時間を気にしていなかったため、慌てて準備をして体育館へ向かった。

入学式が始まるとステージの上で私たちを出迎えるため待っていたのはこの学園の創立者であり学園長の七海夫婦だ。

七海夫婦はPC、スマホ、アプリなど世界一のシェア数を誇る大IT企業 "セブンオーシャン" の社長でもある。

派手な衣装に包まれて圧倒的なオーラを放つ2人に体育館中がざわめく

がやがやと騒がしい体育館の中で、七海夫婦が「学園を創立した目的は1つ!」というと一斉に静かになり息を呑む

学園長は、マイクに向かって「世界一の結婚をしてもらうためだ!そしてもうじき引退する私達の跡を継いで社長になってもらう!」

と発表されると先ほどまでの静寂とは打って変わって生徒達の熱が一気にあがる

「ほんとうに、ほんとうに社長になるチャンスがわたしにもあるんだ....」

想いが込み上げてきて手にギュッと力が入る

「生徒は君たち一期生のみ男女240名! デステニーによって組まれた120組の中から3年間かけて1組!金の夫婦の卵を選ばせてもらう」

蝶柄のネクタイをした学園長の目にかけられた奇抜な星形ののサングラスが反射で輝く

「選ぶのは我が社員達、決められたペアの変更や棄権ももちろん可能だが、より多くのカップルが生まれることを願っているよ!私達のようにね」

と学生の頃に運命の恋をし、結婚したという七海夫婦は見ているこっちまで恥ずかしくなるほどまでに仲が良さそうだ。

そして嵐のような入学式は終わり、120組の中からたったの1組しか選ばれないこの戦いは今、幕を開けたのだった

はやく帰って段ボール片付けなきゃと先ほど作業を中断して入学式に来たことを思い出す。

「あれっ....???」

部屋の前に誰か立っているのが見える

何か私達の部屋に用事でもあるのかなぁと思いながら

「私、この部屋の者ですがって...ふぇっ?」
 
そこに立っていたのは今朝助けた重たい前髪の男の子で思わず驚いてしまった

「ぁあ、朝はどうも」

なんか朝は無口で大人しそうだと思っていたけど、今はなんというか...だるそうで冷たい雰囲気が漂っている

まるで別人みたいだ

「あっ...朝は大事件とかにならなくて良かったね..あはっ...あははは...」

「あんなんで事件になんかなんねーよバーカ」

もう...助けてもらって何その態度?!
朝の私の勇気と頑張りを返してもらいたいよ....

と怒りをぶつけたかったが、入学早々にマイナス点を稼いでしまいそうなので苦笑いでごまかす

「もうお礼は十分に伝わったから、わざわざ言いにきてくれてありがとうね!そっそれじゃあ....」

と怒りを鎮めて部屋のドアを閉めようと思った時

「バンッ...!」

手を挟むか挟まないかのギリギリで隙間に彼は手を入れて閉まるドアをこじ開けた

えぇぇなんで...!いち早く別れようとしてるのになんでこの人また開けようとしてくるの?!今話終わったよねぇ?!

私はドアノブを掴んだまま困惑して何も言い出せずにいると

「俺、部屋ここ」

えっ?今この人部屋ここって言ったよね...
いや聞き間違いかもしれない....

というかどうか聞き間違いであってほしい!と今世紀最大に祈ったが祈りは届かなかったらしい

時すでに遅し、聞き返す前に彼が

「玄関に突っ立ってんな、じゃま」

と部屋に入っていくのが答えなのだと分かる

この先のことを考えたら絶望しかない...

そう思ったが、よくよく考えたらこの態度からして恋愛目当てではなさそうだよね...

ということはお金目当てでこの学園に来たってことなのかなぁ...多分そうだ!と謎の推測に納得がいく

「よかった...」

思わず心の声が漏れる

もし恋愛がしたくて、運命のパートナーを求めて来た人だったら申し訳ないと入学前からずっと思っていたので一安心。

【白の夫婦の卵】

あれから一言も会話をしないまま、気づけば夜になっていた

お腹すいたな....何食べよう

寮には食堂もあるみたいだけど....少しでもお金を節約しておきたいから食堂を利用するのは控えておこう。

本当は人に作ってもらうご飯がやっぱり羨ましかったりもする

だけど、毎日夜遅くに帰ってくる父親に少しでも美味しくて健康なものを食べてほしいと言う一心で、頑張って料理していく内に腕が上がってかなり自信も持てるようになった

重い病気を抱える弟は入院しているから基本1人でご飯をいただく

向かいにはいつも誰も座っておらず、ただただお父さんに作った料理がラップに包まれて置いてあるだけの光景が日常だった

「今日はオムライスにしようっ!」

オムライスは驚くほど低コストで作ることができるのに美味しい

私の大好物だ

卵を冷蔵庫から取り出して割ろうと思った時、ふと金の夫婦の卵を思い出す

私たちほんとに金の夫婦の卵になれるのかな....

なんて考え事をしながら作っているとあっという間に完成

「うんっ!我ながら美味しそう〜」

と我ながらの腕前にふわふわの卵を見て気分も上がる

「あっ!」

出来上がったはいいもののいつもお父さんと私の2人分作るクセが抜けなかったらしく気づけばオムライスは2つになってしまった

仕方ない...明日の朝食にするしかないかとため息をこぼす

でもせっかくだし柊馬くんを誘ってみようかな...

柊馬くんの性格上絶対一緒にご飯とか絶対嫌がるだろうけど....

私はあまり期待はせずに柊馬の部屋のドアをノックする

そろりそろりとドアを開けながら

「あの...夕ご飯作ったんだけど一緒に食べる..?」

尋ねてみたものの、返事はない。

まぁ無理ですよねと予想通りの反応に、誘った自分に後悔した時だった

「別に一緒に食ってやらないこともない、すぐ行くから待ってろ」

?!

予想外の返事に思わずビックリし、目を見開く

冷静を保ったふりをして「じゃあ待ってるから」とドアを閉めた

一緒にご飯を食べてもらえるって言ってもらえただけでなんでこんなに嬉しいんだろう....

いやそんなに喜ぶ要素ないよ..ご飯食べるくらい普通じゃんと自問自答を繰り返す

こんなことが嬉しいなんて自分で言うのもなんだけど単純だ

けどこんなことではしゃいでるなんて思われたくなかったから柊馬くんが来る前には、いつもの冷静さを取り戻していた

しばらくすると部屋から出てきた柊馬は、しっかり手を洗いテーブルを挟んで私の向かいに腰を下ろす

揃ったところで「いただきまーす」と私は両手を合わせ、チラッと柊馬を見ると今朝はしていたスクエア型の眼鏡をしていなかった

眼鏡してもしてなくても前髪が重たすぎて何も見えてないからやっぱり変わらないんじゃないかなぁ.... まぁいっか!と外見にさほど興味はない

そしてケチャップを手に取ってオムライスに何を描こうかワクワクしてると今日は1人じゃなかったんだと気がついて我にかえる

「あっ...ごめん先に使っていいよ...」

そう言って私はケチャップを渡したが柊馬は受け取るなり首を傾げている

もしかしてオムライス苦手だったかな...と思わず不安になってきた

すると適当にケチャップをかけ大きな口でいきなりパクっ

ケチャップの赤さで卵の黄色は一切見えないくらい大量にかけられていて、さすがにしょっぱいんじゃないかな...なんて思ったけど

そこからは手が止まらずしてすごい速さで完食

全部食べてもらえたのは嬉しいけど、その速さに私も思わず引き気味になってしまう

柊馬は全部食べ終えて口元をナプキンで丁寧に拭き取ると

「これ何?」

えっ...これ何ってどういう意味だろう...不味くて責められてるのかな...それともこの料理は何かって聞いてるの...

私は質問の意味がわからなかったけど、さすがにオムライスだよと答えたらそんなこと誰でも分かるわと怒られそうな気もする...

一か八かで「オムライスだよ...」
 
と答えてみた。絶対違うけど....

「そうか...オムライス..ご馳走様、美味かった」

となぜかか素直にお礼を言われて今度は逆に焦る

私は嬉しいような照れるようなで口をぱくぱくさせていると

「お前もさっさと食え」

と自分の食べ終わった食器を台所に運んで洗い終わると部屋に戻っていった

オムライスを知らなかったのかなと疑問に思ったがそれよりも、

人と食べるご飯はこんなにも温かいんだ.....

いつも1人だった私にはこんなにも当たり前のことがすごく嬉しかった

ご飯を一緒に食べただけ。

特にこれといった会話もなかったけど私たちの間は少し縮まった気がした。