ムーンライト


初が声を上げたのは、紺が初の肩に手をやり、ぐいっと引き寄せたからだ。
ふたりの体がぴたりと密着する。
初は突然の状況に頭が働かず、ただ体を硬直させていた。

「こ、紺くん? あの、これは……」
「あのさ、寮全館が停電ってことは、……警報システムも切れてるってことかな?」
「え?」

紺は初の顔を覗き込み、不敵な笑みを向ける。初は、真っ赤になった顔で、目を何度も瞬かせた。

「こ、紺くん? えっと……」
「試してみる? 警報が鳴るのか、鳴らないのか……」

そう言って紺はどんどん体を近づける。
押し倒しそうな勢いに、初は目を丸くし、顔を横にブンブンと振って腕を目一杯紺のほうへ突っ張った。

「こ、ここここ、紺くん! もしかしたら! 万が一にも! 警報システムが切れてなかったら、大変な、ぺ、ぺぺペナルティが……!」
「なーんてね。冗談だよ、冗談」

パッと体を離した紺を、初はほうけた顔で見上げる。紺はそんな初を見下ろし、ニヤッと笑みを浮かべた。
呆気に取られていた初の顔は、みるみるうちに怒ったものになっていった。

「もう! 紺くん、ひどいです! 私は本気で焦ったのに!」
「悪い悪い。あんまりにも初が緊張してるもんだから、リラックスさせようかなーと」
「完全にやり方、間違えてますよ!」

怒りつつも初は、紺の毛布の中にとどまる。
紺は毛布から抜け出し、クッションを取ってきた。

「ほら、ここでキャンプやるんでしょ?」

紺の促しに初はこくんと頷きを返した。

ふたりはそのまま床に座り、紅茶を飲みながら、月を眺めることにした。