「大丈夫だから、初。俺はここにいるよ」
しばらくトントンと背中をさすっていると、初の震えも収まっていった。
「少し落ち着いた?」
「はい。ありがとうございます、紺くん」
「良かった。まわりも騒がしいし、どうやら寮全体が停電したみたいだね」
部屋の外の廊下を、何人もバタバタと走る音が聞こえてくる。どうやら復旧にも時間がかかるだろう。
「ま、とりあえず椅子に座る?」
紺の提案で、ふたりはリビングのほうへと移動した。初を座らせると、紺は「ちょっと待ってて」と告げ、スマホ片手にキッチンへ戻っていった。
「これ、ライト代わりにしよう」
持ってきたのは、ペットボトル。中には牛乳を少し混ぜた水が入っている。
紺はそのペットボトルにライトが当たるようにスマホをセットした。
「わっ! 明るいですね」
「防災のときにも使われるらしいね。とりあえずこれで、少しは見えるようになったんじゃない?」
「これなら動いても安心ですね! あ、そうだ!」
元気を取り戻した初は、そそくさとキッチンへ向かう。彼女はポットとカップをふたつ、テーブルに運んできた。
「せっかく淹れてくれたから、飲みましょう。あたたかいうちに」
初はカップに紅茶を注いでいく。華やかな茶葉の香りが広がり、初は顔をほころばせた。
「はい、どうぞ。紺くん」
カップを受け取り、口をつける。鼻からふわっと花の香りが抜けていった。
「なんか、キャンプみたいですね」
隣に座った初は、カップを両手で包みながら、紺に笑顔を向けた。
「たしかに。停電も、思いがけずいい演出になってるね」
「あ、そうだ! こうしたら……」

