(ホント、可愛いよなぁ)

紺は必死で勉強に励む自分の婚約者をテーブル越しに見つめながら、そんなことを思いふける。

夕食も終えたふたりは、いつものように向かい合って勉強に励んでいた。
とは言っても、紺はすでに宿題を終え、すでに予習の済んでいる先の範囲をパラパラ眺めることにも飽きて、向かいに座る初の観察を始めたところだった。

じっと問題集を睨みつけ、悩みあぐねる表情。解答への糸口が見つかり目を輝かせる瞬間。ひとつひとつに愛らしさがあふれ、いつの間にか紺は目を離せずにいた。

(……おっと、そろそろかな?)

初の様子を観察していた紺は、何かを察し教科書へと目を落とす。
向かいの初は、教科書を掲げ,何度も首をひねったり、教科書を見返したりを繰り返す。
どうやら、しばらく考えても解くことのできない問題があるようだ。
途方に暮れた初はちらちらと紺の様子を眺めはじめ、ついに口を開いた。

「紺くん、ちょっといいですか? 今日の宿題でわからない問題があって…」

さも今気がつきました、とでも言うように、紺は顔をゆっくり上げた。
そこには、数学の教科書で口もとを隠し、困ったような上目遣いでこちらを見る初。紺は思わず無表情になる。

(なに、この生き物。可愛すぎるんですけど)

緩みそうになる口もとをため息で誤魔化し、「どこ?」と身を乗り出す。
初はホッとした様子で表情を和らげ、教科書を広げた。

「あぁ、ここは今日やった公式の応用。ここをカッコで囲んで、こうしたら、……ほら」
「なるほど! 紺くん、さすがです!」

満面の笑みを向けられ、紺の顔にも思わず笑みが浮かぶ。