最愛の婚約者が記憶喪失になった話

初はそこにいるのに、いなくなっちゃったような感覚がするのはなんでだろう。

確かにあの日、初は嬉しそうな顔でしおりを持って、背中に俺の好物のエビフライをいっぱい詰め込んだリュックを背負ってたのに。

全部夢だったんじゃないかって思えてくる。



不意に初がクスッと笑った。


「私、きっとすごく楽しみだったんですね」

「え?」

「フフ、自分のことながらかなりの気合いが伝わってきます!」

そう言って初がしおりを俺に見せながら、心底おもしろそうに笑った。


「……」





やばい



「……まぁ、途中喧嘩しちゃったんだけどねー」

「え!?なんでですか!?」

「ん?なんでだったかな?とりあえず行こっか」


俺はとにかくタスクをこなそうと、初に手を差しだした。


「!?」

「手繋がないと減点っていうルールだったから」

「ちょ、ちょっと待ってください!私パパ以外の人と繋いだことなくて!」

「うん、俺と繋いだことあるけどね」

「は!そ、そうですよね!深呼吸させてください!!」

スー…ハー…と深呼吸する初は、あの日の初とシンクロしすぎていて、タイムリープしちゃったような気さえしてくる。


「……終わった?行くぞ」


俺はなるべく意識させないように間髪入れず初の手を取った。


「……」


俺に手を引かれて後ろを歩く初が、黙りこくった。

見ると、キラキラした目で俺と手をつないだところを見ている。


……あー、もう。

初が、初すぎる。