最愛の婚約者が記憶喪失になった話

「…さっきのは冗談。ほんとはこうやって遊んでたの」

俺が言うと、初が心からホッとした様子で笑った。

「そうだったんですか…ビックリしました!」

「安心した?」

「へ、!?あ、う……えっと……はい」

「素直だなー」

「す、すみません…っ」

なんだかんだで一生懸命風船を追って楽しそうにする初を眺めながら、ハートの風船を抱えて俺の元に来た当時のことを思い出す。



『本当はわたし…っ、やりたかったんです。あのゲーム』

『鮫上くんのことちゃんと知りたいから』




「……」




「鮫上くん?どうしましたか?」

思わずぼーっとしていた俺に初が首を傾げる。

「…あーごめん、腹減ったかも。そろそろ帰って夕飯にしない?」

「あ、そうですね!行きましょう!私、食堂のごはん大好きです!」

「……俺も」


……全然余裕。想定内。

焦らない。大丈夫。

これから、これから。