今ここにいる倉下 初は、中学三年生で記憶が止まってるらしい。

中三……両親が事故に遭ったあと、か……?


会計を待つ間、初と並んでベンチに座ってると、チラチラ飛び込んでくる不安げな視線。

この人誰だろうって思ってんだろうなー。


「大丈夫?」

「へ!?」

話しかけてみると初がビクゥ!と体を跳ねさせた。

…そんなビビらなくても。

「頭、痛い?」

頭の右上の方を自分の頭を使ってトントンと指差すと、初がブンブンと横に振って「大丈夫です」と小さく呟く。

膝に置いた手をギュッと握る仕草は、初がかなり緊張してる時のもの。

その左手薬指には、指輪がない。

……まぁ、うん、そっか、うん。

「なによりです」

初が不安にならないようになるべく優しい笑顔で答えると、初が何か言いたそうに俺を見上げる。

「ん?」

「……あああの、すみません、えっと……鮫上、くん……?」

「……」


『鮫上くん』


「…はーい」

「あの……失礼ですが、私たちって一体どういう関係で……?」

「……」


もしかしてこれドッキリ?

……違うか。流石にこんなでかい病院巻き込まないだろうし、初がこんな演技上手いわけない。

俺は興味本位半分、八つ当たり半分で意地悪なクイズを出題する。


「どういう関係だと思う?」

「えっ」


初が俺の顔を見てボッと火がついたように赤くなった。

そして恥ずかしそうに俺を見上げて言う。


「こ……恋、人…ですか…?」