最愛の婚約者が記憶喪失になった話

「!?」

「し損ねたからいっぱいさせて」


俺はぎゅう…と抱きしめる力を強くして初を噛み締める。

俺の大好きな婚約者兼、彼女。


「……怖い夢でもみましたか?」

「……うん」


こんな怖い夢、初めて。もう一生見たくない。


「あの…紺くん」

「うん」

「10秒経っちゃいますよ」

「!!」


俺は初の両肩を持って勢いよく離れた。


「あっぶなー……」


俺としたことが…!

あと数秒遅かったら警報が鳴ってたかもしれないと思うと心臓がバクバクと鳴って、落ち着かせようと両手で顔を押さえてはー…とまた息を吐いた。


「どうしたんですか?紺くんらしくないですよ」

「……ほんとだね」


俺は顔から手を外して、薬指に指輪のはまった初の手を見る。


いつだって『俺らしい』を壊すのは、あなたなんですよ。

その証拠に今、全部投げ出してどこかに連れ去りたいって思っちゃってるからね?


「初」


俺は初の手を取った。


「はい、紺くん!」


その笑顔がアホかわいくて、つられる。



「……絶対何があっても離さないからね」



絶対、何があっても。



俺はその想いを込めて、初の薬指にそっと誓いのキスを落とした。










fin.