最愛の婚約者が記憶喪失になった話

俺たちは、たくさんの初めてを一緒に経験してきた。


初めての同棲、初めてのデートや初めてのキス、初めての恋、初めての、プロポーズ。

今まで乗り越えてきたいろんなこと、少しずつ知っていったお互いのこと。

一日じゃ語り尽くせない。

両手じゃ抱えきれないほど、数えきれないほどたくさん、たくさん、たくさん二人で積み上げてきた。


それを全部、ここにいる初は知らない。


……それなら





「……好きだよ、初」





全部もう一回、作り直せばいい。





初が目を丸くして、頬を染めてハッと両手で口元を覆った。

俺はそんな初を微笑んで見つめる。




いなくなってしまった初の両親がどれだけ初のことを想ってたかわからないけど。

今、確実に俺は、




「初のことが、世界一好きだよ」




知っていて欲しい。

初は1人じゃないんだよって。

それだけはちゃんと、知っていて欲しい。






「  」






初が口を開いて何か言ったけど、聞こえなかった。


なぜか不意に涙がこぼれそうになって、俺は目を閉じる。