最愛の婚約者が記憶喪失になった話

「いつもふざけてるとか、もう少し真面目に物事を考えて欲しいとかも言われたことあるなー」

「……それは、つまり……私はどういうところを好きに…?」

「さぁ」

肩をすくめた俺に、初が口元に手を置いて真面目に考え込み始める。

初も初なりに、起きたら突然見知らぬ男と同居していた、という事実に困惑しながら一生懸命思い出そうとしているのが伝わってくる。

……〝今の初〟は、俺をどう思ってるんだろう。

俺の視線を感じたのか、初がこっちを見た。


「鮫上くん?どうかしましたか?」


また俺の苗字を言う、初。

ここにいる初は俺の好きな初だけど……俺のことを好きな初じゃない。


「……初」

「はい、なんでしょう!」

「……」



『このまま思い出さない可能性もゼロじゃありません』



病院で診察室を出ようとしたときに付け足された医者のセリフを思い出して、胸が不安に覆われて気持ち悪くなる。






「……もう一箇所行っていい?」