するとイチは首を傾げて言った。

「え?あのとき僕は帰ってきたばかりだったんだけど、さっきまでは体が動かなかっただけだよ?耳は聞こえるからね。ミオが泣きながら優しくしてくれたのも…
「っ、やぁぁ…!!」

私はイチの言葉をさえぎり、声を上げてもだえた。

 ようするに私がイチに対して一人部屋でこぼした言葉ほとんどを、イチは聞いていたということ。
 想いが通じるようにとは願っていたが、丸聞こえともなればさすがに恥ずかしさで自分がいたたまれない。

「だからお昼にミオがいないとき、ご主人様に全部言ったよ?ミオもあんなに言ってくれてるから、って」

「アレを、全部!?」

 私は恥ずかしさのあまり愕然とする。
 しかしイチは、私を見つめながら寂しげに言う。

「…ご主人様、僕にももう会えなくなるって言ってたよ。だから、動けなくなるほど落ち込んだようだけど、僕の居場所はミオのところでいいかって聞かれたんだ。ご主人様、半分もう透明で、時間があまりないからって…」

「透明…?」


 イチのご主人様は、イチがいた頃は足も悪く寝たきりだったらしい。

 ご主人様の気晴らしにと作られたイチは、いつしかしゃべり動けるようになった。
 そして話し相手としてご主人様にとても喜ばれ、数人のお手伝いさん達とともに孫のように可愛がってもらったらしい。

 しかしある日。
 ここを出て、ありのままのイチを好きになってくれる人のところで、役に立って生きていってほしいとご主人様に言われたそう。

 もちろんイチは離れたくないとゴネたらしいけれど、ご主人様に必死に説得されたそうだ。