家に戻るとイチがいた。
 何事も無かったように私の家の、いつもの指定席のそばに横たわって。

「イチ!!良かった…!」

 私は喜んでイチに駆け寄る。

 しかし目を開けてくれない。
 体を揺すっても、ただの人形のように動かなかった。

「イチ…」

 私はおじいさんの言葉を思い出した。

「…三日経っても起きてくれなかったら、イチ、いなくなっちゃうの…?」

 もちろん眠るイチは答えない。

「…やだよ…私、イチに謝ってない…イチのこと嫌いじゃないのに…」


 それから私は事あるごとにイチに話しかけた。今までのことを謝り、私の今の想いを伝えるように。

 頭を優しくなでて、抱きしめたりもした。

「私、イチのこと好きだよ…イチが良かったらずっと私のそばにいて…」



 次の日になってもイチは起きなかった。

(イチ、きっと起きたくないんだ…前にいたご主人様の所のほうが、私なんかといるより…)

 そうは思っても、私は諦めきれなかった。

「…私、私のことを嫌いになったんなら、イチの口からそう聞くまで、イチが起きるのを待ってる…!!」

 眠ったままのイチを抱きしめる。

 その日は、時間を作ってはイチが私にしていたように、私は眠ったままのイチに話し掛け続けた。


 そして夜。
 イチを私のベッドに寝かせ、私もその隣に寝る。

「…本当はこのベッド、一人用なんだから…。イチが寒いんじゃないかって心配してたから、寒く無いのを証明してあげる…。イチ、一緒に寝よ…?寂しくなったら私のこと、優しく起こしてね…?」